2003年10月
ピクサーのセット装飾部門の仕事を教えてください。
プロダクション・デザイナーやディレクターと一緒に、3Dセット内のすべての小道具(植木鉢や家具など)を選んで配置を決めます。前景や背景に見えるものは全て、セット装飾で配置しています。映画のキャラクターとそのニーズをセットによってサポートするのがセット装飾部門の目標です。
美術部門が作成する「シェーダー・パケット」で、
どんな種類の小道具があるのかを確認します。小道具を全部配置したら、ソーダ缶のラベルなどの画像を貼り、小道具に合わせて外観を調整します。木製の小道具などは、色(ウォールナッツ、アッシュ、メープルなど)や木目の細かさなどを決めていきます。外観の調整は構造物や植物など小道具全部に行います。
キャラクターのニーズをサポートするというのは、具体的にはどういうことですか?
例えばキャラクターの経歴や性格が分かるような小道具を用意するということです。もちろん単純にキャラクターが使用する小道具を用意するというのもあります。
小道具はどこで入手するのですか?
モデリング部門にストックがたくさんあるので、そこから選ぶ場合もありますが、自分で作らなくてはならない場合もあります。また、1度使った小道具を10分の1に縮小して別の小道具に見せたりすることもあります。そのシーンで使用できる小道具の数が限られている場合に、どうやって別物に見せるかを考えるのはとても楽しい。私たちの仕事の醍醐味はここにあります。ストックにある小道具を全部覚えておくのはもちろん、創造力を働かせて小道具や外観を変える必要があるわけです。
小道具の応用例を教えてください。
「モンスターズ・インク」の寿司屋のシーンで、店の隅に大きな鉢植えがありますが、実はこの鉢、もとは日本の湯飲み茶碗なんです。植木鉢がなかったので湯飲みを8倍に拡大して使ったのですが、アジア的な雰囲気が出てとてもうまくいきました。拡大した湯飲みに、同じ寿司屋の店内のいけすの石を縮小して盛り、街路樹の葉を落として挿しこめば、鉢植えの出来上がりです。
飾り付けが完了し承認を受けた後、セットはどうなりますか?
レイアウト部門がブロッキングという位置決めを行います。私たちはレイアウト部門と協力して、小道具を正しく配置し構成と合うように調整します。調整したセットは次にアニメーション部門に送られ、同様の調整を行います。プロセスの初めから最終段階まで、すべての部門と一緒に働くのでとても楽しいです。セットは、さまざまな部門で調整され、最後に照明部門に回されます。小道具の配置が変わると陰影が変わるので、照明は最後に調整します。
アニメーション部門での作業は?
小道具の動きをチェックしてつながりを確認します。例えば、キャラクターがグラスを取り上げて別の場所に置いたら、そこから先のショットでもグラスがその場所にあるかどうか、確認しなければなりません。
つながりを保つために、ショットとショットの間で何がどこに配置されているかを観察します。通常は当たり前と思われるようなどんな些細な事でも、いちいち確認しなければなりません。皮肉なもので、シーンをアニメーション化すると、深度の関係で小道具はおおむね目立たなくなります。しかし人間の目は前景や背景のささいな変化に気づくものなのです。小道具がスクリーンに映し出される世界のリアリティを高めるのです。
キャラクターの部屋を装飾する際のルールはありますか?
プロダクション・デザイナーと相談しながら、キャラクターの性格をよく表す部屋を作ることを心がけています。セット内の小道具には、キャラクターの「情報」が含まれています。例えば几帳面できれい好きなキャラクターの部屋なら、棚は整理されているほうがよいでしょう。
人を観察する必要がある仕事のようですね。
はい。私はオフィス内の人の動きをよく見ています。例えば子供は、部屋にあるものをよく投げますね。人の生活空間を常に観察しています。
昔からセット・ドレッサーになりたいと思っていたのですか?
とても小さな頃からセットの飾り付けには興味がありました。バービー™人形を持っていたのですが、人形で遊ばずにバービーの部屋の模様替えばかりしていました。いろいろなシナリオを作ってそれに沿って家具を動かしたり、部屋を飾って写真を撮ったりしていました。また家の中で、散らかった部屋など、ものが散らかっている様子を写真に撮っていました。人が無意識に環境とどう関わっているかを観察していたのです。
子供の頃は、好きな映画やテレビ番組のセットを絵に描くのも好きでした。「アーノルド坊やは人気者」や「ゆかいなブレディー一家」のセットは、自分のオリジナルを設計しましたね。「ゆかいなブレディー一家」は、父親のオフィスの場所がとうとう分からずじまいなんですよ。作りの悪いセットは、すぐ分かってしまんです。「あ、ここのドアが合ってない」って。「奥さま魔女」や「かわいい魔女ジニー」も同様です。子供の頃から、つながりへのこだわりがあったんですね。
それで専門学校へ?
ロードアイランド・デザイン・スクールで工業デザインを勉強しました。鉄鋼、木材、プラスチック工房で働き、モノの構造や、形状の違うモノの組み合わせ方など学びました。形状の組み合わせに関する知識やディテールへのこだわりは、今のピクサーでの仕事に大いに役立っています。
そして卒業後すぐピクサーへ入社したわけですね。
はい。大正解でした。すてきな環境で生活し働きたいとずっと思っていましたから。
セット装飾にはデザインの知識が必要でしょうか?
必ずしも必要ではありません。私たちの部門には建築やデザイン、CGモデル、照明の専門家が揃っていますから。大切なのはバランス感覚。それぞれの能力を合わせれば、クリエイティブの問題も技術的問題もクリアできます。
今の仕事で一番大変なことは?
あらゆる小道具を、映画全体を通じて完全に管理することです。セット装飾は、小道具の位置・色・テクスチャを常に確認しながら、小道具やカメラの動きによるショットの変更にも目を光らせなければなりません。小道具の移動でショットが崩れると、その原因をつきとめるのが大変です。
毎日同じシーケンスで200名ものスタッフが作業しているわけですから、制作に変更はつきもの。次から次へと発生する変更のすべてに目を光らせるのは、とても大変です。
ショットが崩れるというのは、具体的にはどういうことですか?
脈絡のない小道具がころがっていたり、キャラクターが裸だったり目がなかったりするような場合を言います。2Dアニメーションではあり得なかったことです。
「モンスターズ・インク」で、ショットが崩れていたことがあったのですが、そのときはなかなか原因が分かりませんでした。寿司屋で、モンスターがテーブルを投げて店から逃げ出すシーンなのですが、モンスターがテーブルを投げると、寿司屋全体がひっくり返って裏返ってしまうのです。結局、モンスターの手にテーブルを取り付けるはずが、セット全体を取り付けてしまったことが原因でした。
お気に入りの小道具は何ですか?
「モンスターズ・インク」でたくさん使ったパイプです。小さくしたり、別の素材と組み合わせたりして、いろいろなものを作れるからです。パイプで劇場用スタンド照明を作りましたが、とても良い出来映えですよ。手持ちのもので新しいものを作るのは、頭を使いますがそこが面白いですね。
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